交通事故によるむち打ちと低髄液圧症候群
交通事故に遭って首を痛めたと言われると、むち打ち症を思いつく方がほとんどだと思います。むち打ち症は、交通事故の衝撃で、頭部が胴体とは違う向きの力を与えられたことで起きる靭帯や筋肉の障害を言い、頚椎捻挫などとも呼ばれます。
もともと、むち打ち症は外見上やレントゲン写真に客観的な所見が見られないことも多く、患者さんの主訴による部分が多いため、痛いのは気持ちの問題などと言われて辛い思いをされている方も少なくないと思います。
また、交通事故でむち打ち症になってしまい、一番辛い時期は過ぎて症状が和らいできたものの、頭痛や吐き気、めまい、耳鳴り等などがなかなか治らないという方がおられます。そのような場合は、低髄液圧症候群という病気を疑ってみる必要があります。
低髄液圧症候群とは、脳脊髄腔から脳脊髄液が漏れてしまい、脳脊髄腔の中の圧力が低下することによって、頭痛やめまいといった様々な症状を引き起こす病気です。低髄液圧症候群が手術中に脳脊髄腔に誤って穴をあけてしまった場合などに引き起こされることは以前からわかっていましたが、近年、交通事故によるむちうち症が原因と思われる頭痛やめまいなどの症状が、低髄液圧症候群によるものである可能性があることが、医学的に証明されてきました。すなわち、交通事故による衝撃でも、低髄液圧症候群を発症する可能性がある、と医学的に認められてきたのです。
これまでは、交通事故によるむち打ち症が低髄液圧症候群の原因となることが証明されていませんでしたし、そもそも低髄液圧症候群自体の定義や治療法が確立していなかったこともあって、交通事故による損害賠償において低髄液圧症候群による損害を請求するのは非常に困難でした。
ややもすると、先にも述べましたように、むち打ち症が外見的所見を伴わないものであるため、頭痛やめまい等の症状が治らないのは、精神的なものだとか、詐病(病気であるかのように偽ること)だとか言われて、保険会社も損害として認めようとしない傾向にありました。
しかし、前述のように、交通事故によるむちうち症を原因として低髄液圧症候群を発症する可能性があることが認められてきたので、事故の後期間が経過しているのに、頭痛やめまい、吐き気、耳鳴り等の症状が治らないという方は、一度、低髄液圧症候群かどうかの診断を受けられることをお勧めします。
現在は、厚生労働省における脳髄液減少症の診断・治療に関する調査研究により、地治療方針が作成され、治療のひとつであるプラッドパッチ療法が平成28年4月から保険適用になる等、以前よりもこの病気に対する理解が進んでいます。
低髄液圧症候群と診断された場合は、後遺症として12〜14級程度の認定を受けられる可能性もありますので、単にむち打ちが長引いていると思わずに、専門の医師による診断を受け、また、保険会社との交渉については、この病気に詳しい弁護士に相談されるのがよいと思います。