前方不注視によって、横断歩行者との事故が多いことは説明するまでもないが、停止可能な距離以上手前の地点で横断を開始した歩行者等を発見できないような場合、車を運転しているドライバーには、どこからが過失として認められ、どこからが過失として認められないのか。

横断歩行者との事故において、前方不注視以外に考えられる過失には、どのようなものがあるのか。

このとき、大きく2つのことを考える必要がある。

  1. 速度超過の過失が認められるか否か
  2. 歩行者等の横断(飛び出し)が予測できるような特段の事情がなかったのか

ということである。上記2点を考慮したうえで、いくつか判例をご紹介しよう。

①過失が「認められる」とされた事例

【東京高判昭和32.2.11】
自動車運転者は、自動車の前方を児童3名の中1名が横断したのを認めた以上、残りの子供等も同じような態勢に出るかもしれないという予想は当然すべきであるから、もしそのような態勢に出た場合に、自己の運転する車を、これに衝突することのないように、あらかじめ万全の措置を講ずべき業務上の注意義務がある。

【大阪高判昭和35.1.19】
自動車運転者は、路傍に6歳位の児童がいるのを発見したときは、右児童が具体的に飛出す徴候が存するときはもちろん、そうでなくてもその動静に注視し、進路に飛出したときは直ちに急停車しうるよう適宜の措置をとって進行するなど、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。

【広島地判昭和42.11.22】
自動車を運転して歩車道の区別のない交通量の少ない田舎道を進行中、進路前方左側の人家の軒下に数人の大人や子供を発見したときは、警音器を吹鳴して警告を与えるのはもちろん、同人等が自車の進行に気付いているかどうか留意し、もし気付いた様子がないときは、適宜減速徐行の上進行し、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。

【東京地判平成12.5.23】
当時8歳の児童が、横断歩道上に一時停止していたトラックの面前を横断しようとした際、発進したトラックにひかれて死亡した交通事故について、被告人は自車トラックを横断歩道上ないしその付近に停止させていたのであるから、自車を発進・進行させるに当たっては、一般的に横断歩道を渡りきれなかった者や駆け抜けて行こうとする者がいる可能性があり、かつ、折から登校時間帯でもあり、身長の低い児童等がいるとも考えられるのであるから、単なる走行中のように自車の前方を直接目視するだけの方法ではなく、アンダーミラーやサイドアンダーミラーをも利用するなどして周囲の横断者の存在及び動静を確認し、更に死角を考慮の上、いつでも危険を回避できるように安全確認を尽くしつつ発進・進行すべき業務上の注意義務がある。

【東京地判平成15.4.10】
自動車運転者としては、人だけではなく、障害物等、およそ進路前方の安全を妨げる一切の事象につき、早期発見に努め、進路の安全を確認して進行しなければならない業務上の注意義務があるのであって、原判決説示に係る事情からそのような安全確認義務が免ぜられるものとは解されない。所論が指摘するとおり、本件事故現場付近は、市街地外の道路で幅員は狭く、歩道や信号機の設置も少なく、地域住民がいわば人と車との共用として利用している生活道路であり、交通量は多くないが、本件現場付近は両側に民家が建ち並ぶなどしており、昼夜を問わず、人車の通行は予想され、自動車運転者としては、当然のことながら、進路前方の先行車両あるいは対向車両及び歩行者等の有無並びにその安全を確認すべき注意義務が存在することは疑いを挟む余地もない。そして、夜間の走行の場合は、進路前方が暗ければ前照灯で明るく照らし、進路前方の歩行者あるいは横断歩行者等の有無及び安全を確認した上進行すべきであって、前照灯の届く距離が短ければ減速して前方の安全確認の可能な状態を確保する注意義務が要求されることは当然である。また、歩行者あるいは横断歩行者がたまたま飲酒酩酊者であったとしても、運転者に求められる注意義務に何らの差異も認められない。そうすると、原判決の、深夜であるから飲酒酩酊した人が車道内にいたることまでを予想して慎重に進行すべき注意義務があったとはいえないとする判例は、到底是認できるものではない。

②過失が「認められない」とされた事案

【東京高判昭和44.12.17】
夜間、道路反対側に対向してタクシーが1台停車し、その後部右角付近に成人男子1名が道路を横断すべくひとまず佇立しているのを70、80メートル前方で発見し、やや減速して進行する自動車運転者は、右タクシーとすれ違うに際し、その者あるいは同伴の幼児が突如その進路に出て来ることがあるのを予想して、警音器を吹鳴して減速徐行する注意義務はない。

【仙台高判昭和45.5.11】
自動車運転者が大型バスを運転して狭い道路を進行中、進路前方の軒下で道路に背を向けて立話をしている者を発見した場合、それが特に分別のない幼児とか、あるいは道路に出るような気配を示している場合は別として、突然不用意に道路に出るというような異常な行動に出ることまで予測し、警音器を吹鳴して注意を与えるとか、一時停止して危険を避けなければならない注意義務はない。

【東京高判昭和45.5.25】
自動車運転者は、横断歩道またはその直近でない箇所において、車道を横断すべく自車の進行に注意を払うことなく、その直前を走って飛び出すような歩行者があることまで予測して、事故防止の措置を講じなければならない注意義務はない。

【東京高判昭和45.12.23】
自動車を運転して進行中、前方歩道に成人が佇立しているのを認めた場合、右の成人が一般に気付かれないような心身障害者であって、小学校低学年の生徒さえ心得ている、道路の横断に当たっては、まず右を見てから左を見て渡るとの原則を無視して、歩車道の境界線より1.4メートルの内側から道路の左側だけを見ただけで、突如歩道に入るということは到底予想できないところであるから、警音器を吹鳴しなければならない注意義務はない。

【東京地判昭和47.3.18】
ガードレールが設けられた2本の分離帯によって区分された歩行者横断禁止の道路を進行する車両の運転者は、歩行者が右道路を横断するには必ず現場近くの横断歩道を利用するのであって、これを利用しないでガードレールをまたぎ、かつ歩行者横断禁止を無視して横断歩道以外の部分で車道を横切る者はないであろうと信頼していれば足りるというべきであり、自車の進路前方を横切る歩行者の存在を予見すべき注意義務はない。